「ストリートレベルの行政職員」のジレンマから生じる差別問題

以下の記事を読み、SNSでも話題になっていたため、考えを整理しておきたい。

 

https://www.huffingtonpost.jp/entry/story_jp_6022839dc5b6d78d4449d1f4

 

日本人とバハマ人との間に生まれたドレッドヘアの男性が警察官から職務質問を受ける様子を撮影した動画が取り上げられており、その差別性に言及している。  

この問題は、いわゆる「ストリートレベルの行政職員」のジレンマに当たると思う。

「ストリートレベルの行政職員」とは、職務質問を行う警察官や、市役所で働くケースワーカーなど、対象者と直接接し、職務をこなす行政の現場職員をいう。

直接的な対人業務において、現場職員はの人的・時間的な資源制約を勘案しつつ、「エネルギー振り分けの裁量」、「法適用の裁量」を働かせることになる。

 

一方で、 行政組織は指揮命令系統が一元化がされた官僚制で成り立っており、属人的判断は排除される。

その中では、前述の現場職員の裁量自体も統制の対象であるべきところ、なかなかそれが難しいというジレンマだ。

組織が現場の仕事をどう評価するかが、現場に大きな影響を与えることととなる。

こうした裁量は、一市民の目線で言えば非常に影響力が大きいものである。

 

さて、記事の内容に当てはめれば、動画の男性は、対応した警官の職務に対し、不当性を感じている。

 

こいつこんな髪してるからどうせ(薬物を)持ってんだろうなって思ったんでしょ 

 

男性がこのような発言をしていることから、特定の人種や髪型を薬物所持の疑いがある者に類型化し、 職務質問の対象としているのではないかと不信感を抱いている。

警察が組織として人種や髪型などで怪しい人物像を類型化し、それを元に取り締まりを行った場合、差別の謗りは免れない。*1

一方で、現場の警察官としては、経験則や対象者の挙動から、 声掛けを行っている。*2

こうした声掛けの仕方は、特定の属性に声かけをしまくるような差別的なものにもつながりうる。*3

 

職員が個人的に、黒人でドレッドヘアをした男性にドラッグ所持者が多いという偏見を形成するに足る経験則を有していた場合、そうした人に狙いを定めて観察し、少しでも挙動の怪しさ等をつかみ取った途端声をかけるといったことが行われうるわけだ。

 

私の経験則として別にドレッドヘアーが悪いわけではない、悪いわけではないですけど、ドレッドヘアー、おしゃれな方で結構薬物を持っている方が私の経験上今まで多かった

 

記事の警察官の言葉であるが、先に触れた「エネルギー振り分けの裁量」が与えられており、組織が薬物所持者の検挙数の多さを現場の評価対象とする場合、現場からしたら、経験則を生かすのも当然だろう。*4

 

今回の記事をめぐっては、様々な意見が挙げられているが、動画で晒されることが現場への萎縮につながることは懸念される。

今回のような動画を受け、特定の類型に対する差別につながらないようにと配慮することが、結果的に必要以上に声掛けをためらうことにつながるのは適切な形ではない。

ストリートレベルの行政職員への圧力が、現場の萎縮につながり、適正な治安維持をゆがめる可能性があることには留意しておく必要がある。

 

外国人は年々増えており、多様性のある社会が求められている。

「ストリートレベルの行政職員」のジレンマを、人種問題と絡めてどのように克服していくべきなのか、これから問われている。

*1:仮に動画の男性のような人に薬物所持者が多いということが統計的事実であろうと、レイシャルプロファイリングに当たるのだろう。また、特定の属性に薬物所持者が多いことについて、警察官の職務質問の対象がその属性に偏っていないかという点にも留意する必要がある。

*2:記事には、「警察官は異常な挙動や周囲の事情から合理的に判断」 とあるが、事実上厳格な運用はされていないように見える。ここにストリートレベルの行政職員の特徴が表れている。

*3:警察からの声掛けということでいえば、私も中高生時代、夜に自転車を走らせていると警官にしょっちゅう声をかけられ防犯登録の確認をさせられたことを思い出す。警察の威圧的態度に嫌な思いをしつつも、他方で盗まれた自転車が返ってきた経験もあり、不快な声掛けの効果を実感した。

*4:とはいえ何も悪いことをしていないのに声をかけられる側が納得するかは別で、「嫌なら日本から出ていけ」というのはあんまりだ。